奥景
別府 由布院 大分県 温泉 地獄めぐり 断層 旅行記

別府はなぜ、これほど湯が湧くのか。地獄めぐりから由布院の雲海まで、大分の湯けむりを追った旅

📅 取材時期:2023年1月

真っ赤な池が、湯気を上げていました。

血の池地獄、という物騒な名前の場所です。

すぐ近くでは、灰色のどろどろが、コポッ、ゴポッと音を立てて膨らんでは弾けています。

そこから車で数分の場所では、吸い込まれそうなターコイズブルーの池が、もうもうと白い湯気を吐いていました。

赤、灰色、青。

同じ町の、同じ地面から噴き出しているはずなのに、どうしてこんなに色が違うのでしょう。

私
そもそも、なんで別府ってこんなに湯が出るんだろう。

その素朴な疑問が、この旅のあいだ、ずっと頭の片隅に残ることになりました。


まず、別府という町の「正体」

別府の町は、海に向かってゆるやかに傾いた坂の上にあります。

その坂のあちこちから、白い湯けむりが立ちのぼっています。

一本や二本ではありません。

町のいたるところから、まるで地面が呼吸しているように、湯気が上がり続けているのです。

これほど大量の湯が、なぜここだけに集まっているのか。

その答えは、町の下にある地面の割れ目にあるとされています。

🔍 なぜ別府にこれほど温泉が湧くのか
別府の一帯は、別府湾に向かって地面が階段状に落ち込んでいく、たくさんの断層が集まった場所だとされています。別府-万年山断層帯(べっぷ-はねやまだんそうたい)と呼ばれる地域です。

断層とは、地面がずれて割れたところ。この割れ目が、地下と地表をつなぐ「通り道」になっていると考えられています。

さらに背後には、鶴見岳(つるみだけ)・伽藍岳(がらんだけ)といった火山があります。地下には熱を持った岩体があるとされ、しみ込んだ雨水がそこで温められます。

温められた水は、軽くなって上へ上へと向かいます。そして断層という通り道を伝って、一気に地表へ噴き出す——これが別府の湯けむりの正体だと考えられています。

「熱源」と「水」と「通り道」。この三つがそろっているからこそ、別府にはこれほどの湯が湧くのだとされています。

そう聞くと、あの無数の湯けむりが、地面の割れ目の位置を教えてくれているようにも見えてきます。

町そのものが、地下のかたちを写した地図なのかもしれません。

📍 別府温泉(別府市街)
所在地大分県別府市
特徴別府湾に面した傾斜地。町のあちこちから湯けむりが上がる
まわり背後に鶴見岳・伽藍岳。地獄めぐりは鉄輪・亀川地区に集まる

血の池地獄 — 赤いのは、湯ではなく地面だった

地獄めぐりの一つ目は、いちばん名前の強いところから。

血の池地獄です。

柵の向こうに広がっていたのは、赤褐色というより、鉄がさびたような色の池でした。

湯気が絶え間なく立ちのぼり、その向こうに赤い水面がゆらめいています。

血の池地獄。赤褐色の湯が広がり、白い湯気が立ちのぼる

ところが、近づいてよく見て驚きました。

湯そのものは、意外と透明っぽいのです。

赤いのは、水ではなく、その下にたまっている地面のほうでした。

浅いところは地面の赤がそのまま透けて見え、池全体が赤く染まって見えていたのです。

血の池地獄の水面。透けた湯の下に赤い堆積物が広がる

奥のほうには深そうな場所もあり、そこは色の濃さが違って見えました。

🔍 なぜ赤くなるのか
血の池地獄の赤は、湯にとけこんだ鉄分によるものだとされています。

地下深くの熱水は、通り道の岩から鉄などの成分をとかし込みながら上がってきます。その水が地表に出て空気に触れると、鉄分が酸化して赤い成分となり、底に沈んでいくと考えられています。

鉄がさびると赤くなるのと、似た現象だとされています。

つまり、ここで見ている赤は「赤い湯」ではなく「湯が長い時間をかけて敷きつめた、赤い堆積物」。水が透けて見えるのに池が赤いのは、そのためです。

名前のおどろおどろしさとは裏腹に、静かで、どこか作りものめいた美しさのある場所でした。

📍 血の池地獄
所在地大分県別府市野田(亀川地区)
駐車場敷地内に駐車場あり
見どころ赤褐色の池。近づくと湯自体は透けて見える
備考隣の龍巻地獄と近く、あわせて回りやすい

龍巻地獄 — 待って、待って、噴き上がる

血の池地獄のすぐ隣が、龍巻地獄です。

ここは間欠泉。

いつでも見られるわけではなく、30分から40分に一度だけ、湯が噴き上がります。

観覧席のような階段に腰かけて、その時を待ちました。

そして、ついにその瞬間が来ます。

石組みの奥から、白い湯が勢いよく吹き上がりました。

噴出は6分から10分ほど続きます。

龍巻地獄。石組みの奥から白い湯が勢いよく噴き上がる

正直に書くと、想像していたよりは小ぶりでした。

天まで届くような柱を期待していたぶん、「おお、こんな感じか」という気持ちもあります。

それでも、地面が自分のタイミングで湯を吐き出すという事実そのものが、じわじわと面白いのです。

🔍 なぜ「一定の間隔」で噴くのか
間欠泉は、地下の細い通り道に熱水がたまり、圧力が高まったところで一気に噴き出す仕組みだと考えられています。

噴き終わると圧力が下がり、また熱水がたまるまで時間がかかります。だから休んでは噴き、休んでは噴きを繰り返すとされています。

その間隔がおおむね一定になるのは、地下の通り道のかたちと、たまる湯の量、そして熱の入り方がいつも似ているからだと考えられています。

地面の下にある「見えない容れ物」の大きさを、噴出の間隔が教えてくれている、とも言えそうです。
📍 龍巻地獄
所在地大分県別府市野田(血の池地獄のすぐ隣)
駐車場敷地内に駐車場あり
見どころ30〜40分に一度、6〜10分ほど噴出する間欠泉
注意噴出まで待ち時間がある。時間に余裕をもって

海地獄 — 湯気の量に圧倒される、青い池

移動して鉄輪(かんなわ)地区へ。

ここで、この日いちばんの迫力に出会いました。

海地獄です。

門をくぐった瞬間、視界がまるごと白くなりました。

湯気の量が、とにかくすさまじいのです。

その白の向こうに、水色から淡いターコイズブルーへと移ろう、大きな池が広がっていました。

敷地も広く、写真を撮ろうとしても、湯気が流れて池を隠したり見せたりを繰り返します。

海地獄。淡いターコイズブルーの池から白い湯気が大量に立ちのぼる

面白かったのは、同じ敷地の中でもう一度「赤」に出会ったことでした。

上のほうにある足湯の近くの湯が、とても赤いのです。

正直なところ、血の池地獄よりも赤く見えました。

🔍 なぜ青く見えるのか
海地獄の青は、湯にとけている成分と、光の性質の両方が関わっていると考えられています。

一つは、湯にとけこんだ成分によるもの。硫酸鉄などがとけていることが青く見える要因だとされています。

もう一つは、光の散らばり方です。水は赤い光を吸収しやすく、青い光を残しやすい性質があります。さらに湯の中に細かい粒子が漂っていると、青い光が散らされて目に届き、乳白がかった水色に見えるとされています。

同じ敷地の中に赤い湯もあるのは、湧き出す場所ごとに、通ってきた岩や成分、温度が違うためだと考えられています。

地下の「通り道」がわずかに違うだけで、地表に出たときの色がここまで変わる——別府の地獄が一つずつ違う顔をしているのは、そのためだとされています。

そしてもう一つ、海地獄で忘れられないものがあります。

温泉ゆで玉子です。

100円で、温かいまま手渡されます。

殻を割ると、ふわりと硫黄の香り。

黄身の茹で加減が絶妙で、しっとりと、けれど固まりすぎていない。

地面の熱がそのまま料理になっている、という当たり前のことに、あらためて感心してしまいました。

私
これ、100円でいいの……?ゆで玉子でこんなに感動すると思わなかった。
📍 海地獄
所在地大分県別府市鉄輪(かんなわ)
駐車場敷地内に駐車場あり
見どころ広い敷地と大量の湯気。水色〜ターコイズブルーの池
名物温泉ゆで玉子(100円)。上のほうに足湯もある

鬼石坊主地獄 — 熱湯ではなく、熱泥

海地獄のすぐそばにあるのが、鬼石坊主地獄(おにいしぼうずじごく)です。

ここには、池がありません。

あるのは、灰色のどろどろした泥です。

その泥が、あちこちで、コポッ、ゴポッと音を立てて丸くふくらみ、ぱちんと弾けます。

その動きが、坊主頭が浮かんでは沈むように見えることから、この名がついたのだそうです。

まわりには、はねた泥が固まってできた破片のようなものが、いくつも散らばっていました。

鬼石坊主地獄。灰色の熱泥がふくらんでは弾ける

音が、とにかく良いのです。

ずっと聞いていたくなる、間の抜けた、それでいて不気味な音でした。

🔍 なぜ湯ではなく泥になるのか
熱い水や蒸気が長い時間、まわりの岩に触れ続けると、岩は少しずつ変質して粘土になっていくとされています。

湧き出す量に対して粘土が多い場所では、湯が泥と混ざり合い、どろりとした熱泥になると考えられています。

粘土はねばり気があるため、下から上がってくる蒸気がすぐには抜けられません。ガスが泥の中でふくらみ、耐えきれなくなって弾ける——あのコポッ、ゴポッという音は、そうして生まれているとされています。

同じ別府の地下から出てきた湯でも、通ってきた岩が変質しているかどうかで、透明な池になるか、灰色の泥になるかが分かれるのです。
📍 鬼石坊主地獄(おにいしぼうずじごく)
所在地大分県別府市鉄輪(海地獄のすぐ近く)
駐車場敷地内に駐車場あり
見どころ灰色の熱泥がふくらんでは弾ける。音も見どころ

かまど地獄 — 一つの敷地に、色の見本市

地獄めぐりで、いちばん面白かったのがここでした。

かまど地獄です。

何が面白いかというと、一つの敷地の中に、色も性質も違う地獄が「一丁目」「二丁目」と番地のように並んでいるのです。

一丁目は、淡い茶色の熱泥。

三丁目は、青。

しかもこの青が、海地獄よりも断然はっきりした青なのです。

まわりの縁が白いせいか、色がいっそう際立って見えました。

五丁目は、めちゃめちゃ広い。

青みがかった乳白色の湯が、どこまでも広がっています。

案内によると、雨が長く続くと、透き通ったグリーンに変わることもあるのだそうです。

六丁目は、また赤褐色の熱泥に戻ります。

見た目は浅そうなのに、実際の深さは2mあると知って、思わず一歩下がりました。

かまど地獄の茶色い熱泥。表面がふつふつと動いている

私
同じ敷地でこれだけ色が違うのか。ここだけで地獄めぐりが完結してる。
🔍 同じ敷地なのに、なぜ番地ごとに色が違うのか
別府の地下には、断層による細かな割れ目が網の目のように走っているとされています。

湯は、その割れ目のどれを通ってきたかによって、触れる岩も、とかし込む成分も、地表に出るときの温度も変わってきます。

鉄分が多ければ赤褐色に、粘土が多ければ泥に、細かい粒子が漂えば青みがかった乳白色に。少し離れた噴出口でも、たどってきた道が違えば、まったく別の顔になると考えられています。

雨が長く続くと五丁目の色が変わるとされているのも、地下にしみ込む水の量が変われば、湯の濃さや粒子の量も変わるためだと考えられています。

地獄の色は、地下の道すじの記録なのです。
📍 かまど地獄
所在地大分県別府市鉄輪
駐車場敷地内に駐車場あり
見どころ一丁目〜六丁目まで色も性質も異なる。三丁目の青は必見
注意浅く見えても深い場所がある。柵から身を乗り出さないこと

白池地獄 — お茶のような、緑の池

地獄めぐりの最後は、白池地獄。

名前は白ですが、目の前に広がっていたのは、黄緑から緑茶のような、落ち着いた色の池でした。

敷地も広く、庭園のように整えられています。

赤や青のような派手さはないぶん、静かに眺めていられる場所でした。

白池地獄。黄緑がかった緑色の池が広がる

面白いのは、ここに熱帯魚館があることです。

湧き出す熱湯を使って水温を保ち、熱帯の魚を飼っています。

地面の熱を、こんな使い方もするのかと感心しました。

📍 白池地獄
所在地大分県別府市鉄輪
駐車場敷地内に駐車場あり
見どころ黄緑〜緑茶色の池。庭園風の広い敷地
備考熱湯を利用した熱帯魚館を併設

岡本屋売店 — 塩卵と、地獄蒸しプリン

別府の明礬(みょうばん)地区で立ち寄ったのが、岡本屋売店です。

いただいたのは、温泉の蒸気で仕上げた塩卵。

殻がするりとむけて、白身がしっとりしています。

海地獄のゆで玉子とはまた違うおいしさで、思わず二つ目に手が伸びました。

そしてもう一つ、地獄蒸しプリン。

正直に書くと、海地獄でも同じような地獄蒸しプリンをいただいたのですが、私は岡本屋のほうが好みでした。

地面の熱で蒸したというだけで、味が特別になるわけではないはずなのに、なぜかいつもよりおいしく感じてしまいます。

📍 岡本屋売店
所在地大分県別府市明礬(みょうばん)
名物温泉の塩卵、地獄蒸しプリン
備考地獄めぐりの道中に立ち寄りやすい

由布川峡谷 — 広角レンズにも入りきらない、岩の谷

別府から内陸へ入り、次に向かったのが由布川峡谷(ゆふがわきょうこく)でした。

駐車場から、長い階段をひたすら降ります。

降りている最中は、正直「まだかな」と思っていました。

ところが、谷底にたどり着いた瞬間、言葉が出なくなりました。

圧巻、という言葉しか浮かびません。

両側から、一枚の巨大な岩のような壁が迫り、その表面のあちこちから、細い水がしたたり落ちています。

広角レンズを構えても、まったく画角に入りきりませんでした。

由布川峡谷。両側から迫る巨大な岩壁と、したたり落ちる水

足元の水は驚くほど透き通っていて、底まで見えそうなのに、意外と深そうでもあります。

その透明さと、岩壁のスケールのギャップが、なんとも不思議な場所でした。

🔍 なぜ壁が「一枚の岩」のように見えるのか
この一帯は、大昔の火山活動で流れ下った火砕流が積もり、冷えて固まった岩でできているとされています。

火砕流の堆積物は、広い範囲に一度にどっと積もるため、途中に目立った切れ目のない、均質な岩の層になりやすいと考えられています。

そこへ川が長い年月をかけて刃物のように切れ込むと、継ぎ目の見えない一枚岩のような壁が両側にそそり立つことになります。

壁のあちこちから水がしたたっているのは、岩の中をゆっくりしみ通ってきた地下水が、壁面からしみ出しているためだとされています。

別府に湯を運んでいるのも、この谷に水をしたたらせているのも、もとをたどれば同じ「岩の中を通る水」なのだと思うと、少し不思議な気持ちになりました。
📍 由布川峡谷(ゆふがわきょうこく)
所在地大分県由布市・別府市の境
駐車場入口に駐車場あり
アクセス谷底までは長い階段を下る。帰りは登り返し
注意濡れた岩は滑りやすい。増水時は近づかないこと

東椎屋の滝 — 道は怖かった。でも、来てよかった

翌日は、滝をめぐる一日にしました。

まず向かったのが、東椎屋の滝(ひがししいやのたき)です。

結論から書くと、大変でした。

でも、それ以上にすごかったのです。

滝までの散策路は、正直なところ少し怖い場所もありました。

冬の朝で人も少なく、「この道で合っているのだろうか」と何度か立ち止まりました。

それでも歩き続けた先に、滝が現れます。

見た瞬間、来てよかった、と素直に思いました。

切り立った岩壁にぐるりと囲まれた奥に、一本の水が落ちています。

その「囲まれている感」が、とにかくすごいのです。

音が壁に反響して、体ごと滝の中に入り込んだような感覚になりました。

東椎屋の滝。切り立った岩壁に囲まれた奥に、一本の水が落ちる

私
ここまで来た甲斐があった。もうこの一本で今日は満足。
📍 東椎屋の滝(ひがししいやのたき)
所在地大分県宇佐市
駐車場入口に駐車場あり
アクセス駐車場から散策路を歩く。足元の悪い箇所あり
注意歩きやすい靴で。冬季は路面の凍結に注意

龍門の滝 — 行きやすくて、大迫力

同じ日に立ち寄ったのが、龍門の滝(りゅうもんのたき)です。

ここは、東椎屋の滝とは対照的でした。

車でのアクセスもよく、駐車場から滝までもすぐ。

それでいて、目の前に広がる眺めは大迫力です。

苦労せずにこの迫力に出会えるのは、正直ありがたいところでした。

滝は「行きにくいほど良い」と思い込みがちですが、そうでもないのだと気づかされます。

📍 龍門の滝(りゅうもんのたき)
所在地大分県玖珠郡九重町
駐車場滝の近くに駐車場あり
アクセス車でも徒歩でも近づきやすい
見どころ間近で見られる大迫力の流れ

同じ日には、福貴野の滝(ふきののたき)にも立ち寄りました。

ただ、ここは道が細くて対向車とすれ違えず、散策コースも整備されているとは言いがたい状態でした。

滝そのものよりも、そこへ至る道のりのほうが強く記憶に残っています。

訪ねる方は、車の運転と足元に十分お気をつけください。


龍のひげ — 朝、部屋の窓に由布岳と雲海

この日の宿は、由布院の「龍のひげ」でした。

そして翌朝、カーテンを開けて、思わず声が出ました。

快晴です。

窓の正面に、どっしりとした由布岳。

そしてその手前の低いところに、白い雲海が横たわっていました。

山と雲と朝の光が、そのまま一枚の絵になっています。

部屋にいながらこの景色に出会えたことが、この旅でいちばんの幸運でした。

朝の由布岳と、その手前に横たわる白い雲海

🔍 なぜ由布院の朝に雲海が出やすいのか
由布院の中心部は、山にぐるりと囲まれた盆地の地形だとされています。

晴れて風の弱い夜は、地面の熱が空へ逃げていき、冷えた空気が重くなって盆地の底にたまります。

そこへ川や温泉から立ちのぼる水蒸気が加わると、空気が冷やされて霧になり、盆地いっぱいに白くたまるとされています。

高い場所から見ればそれが雲の海のように見え、盆地の中にいれば深い朝霧になります。

秋から冬の、よく晴れて冷え込んだ朝ほど出やすいと考えられています。この日の快晴と冷え込みは、まさにその条件がそろった朝でした。
📍 龍のひげ(宿)
所在地大分県由布市湯布院町
見どころ部屋から由布岳を望む。条件がそろえば朝の雲海も
備考眺望は天候次第。冷え込んだ晴天の朝が狙い目

金鱗湖 — 湖面から、湯気が立ちのぼる

由布院といえば、金鱗湖(きんりんこ)です。

最初にたどり着いたときの正直な感想は、「思ったより小さいな」でした。

ぐるりと歩いても、そう時間はかかりません。

ところが、しばらく眺めているうちに、景色が変わり始めました。

湖面から、白い湯気がゆらゆらと立ちのぼってきたのです。

水面が霞み、対岸の木々がぼんやりとにじんでいきます。

小さいと感じていた湖が、急に奥行きを持ったように見えました。

湯気の立ちのぼる金鱗湖。水面が白く霞んでいる

🔍 なぜ湖から湯気が上がるのか
金鱗湖には、冷たい湧き水だけでなく、温泉が流れ込んでいるとされています。

そのため湖の水温は、冬でも外の空気よりずっと高く保たれます。

暖かい水面のすぐ上の空気は湿っていて、そこへ冷たい外気が触れると、水蒸気が冷やされて小さな水の粒になります。これが、湯気として目に見えるとされています。

だから冷え込みが強いほど、湯気は濃くなります。この湖がいちばん美しく見えるのは、寒い冬の朝だと言われているのは、そのためだと考えられています。

ここでもやはり、地下から届く熱が景色をつくっていたのです。
📍 金鱗湖(きんりんこ)
所在地大分県由布市湯布院町川上
駐車場周辺に有料駐車場あり
見どころ湖面から立ちのぼる湯気。冷え込んだ朝ほど濃い
備考一周は短時間。湯の坪街道から歩いて行ける

湯の坪街道と、由布院・別府で食べたもの

金鱗湖から続く湯の坪街道は、とにかく人が多い通りでした。

歩くだけでもなかなか大変で、じっくり見て回るという雰囲気ではありません。

次に来ることがあれば、街道は買い物だけに絞ってもいいかな、というのが正直な感想です。

焼きたてのケーゼクーヘンや、黒糖かりんとうまんじゅうは、行列に並ぶ価値がありました。

食事のほうも、大分はとてもよかったのです。

まず、とり天。

レストラン東洋軒の本家とり天定食(1,430円)をいただきました。

衣がふわっと軽く、揚げ物なのにまったく重たくありません。

次から次へと箸が進んでしまう軽さでした。

そして、甘味茶屋のやせうま(400円)。

これは感動的なおいしさでした。

きなこがたっぷりかかっていて、麺のような生地には、しっかりとした弾力があります。

素朴なのに、忘れられない一品になりました。

豊後牛の炭火焼もいただきました。

啓修庵御膳(3,500円)で、目の前の炭火で焼きながらの食事です。

私
やせうま、名前で油断してた。これがいちばん記憶に残るかもしれない。
📍 湯の坪街道
所在地大分県由布市湯布院町川上
アクセス由布院駅から金鱗湖へ続く通り
買い物焼きたてケーゼクーヘン、黒糖かりんとうまんじゅうなど
注意日中はとても混雑する。朝の時間帯が比較的歩きやすい

湯けむりも、雲海も、根っこは同じだった

赤い池、灰色の泥、ターコイズブルーの湯。

長い階段の先の岩壁と、囲まれた滝。

そして、朝の雲海と、湖面の湯気。

一つひとつはばらばらの風景に見えていました。

けれど旅を終えてみると、どれも「地下から届く熱と水」がつくったものだったのだと気づきます。

別府に湯が湧くのは、断層という通り道と、火山という熱源と、しみ込んだ雨水がそろっているからだとされています。

地獄の色が一つずつ違うのは、湯がどの道を通ってきたかが違うからだと考えられています。

由布院の朝に霧が立つのも、金鱗湖から湯気が上がるのも、もとをたどれば同じ熱です。

大分という土地は、地面の下がずっと働き続けている場所なのだと感じました。

そして、その熱でゆで玉子が茹で上がり、プリンが蒸され、宿の湯が沸いています。

こわいくらいの地面の力と、100円のゆで玉子のおいしさが、同じ場所にある。

そのちぐはぐさが、この旅でいちばん面白かったところでした。

次に来るときは、街道の混雑を避けて、朝いちばんの金鱗湖から歩き始めようと思います。


地質情報の参照: 産総研地質調査総合センター「地質図Navi」、国土地理院地形図、地震調査研究推進本部「別府-万年山断層帯」公開情報 /「〜とされている」「〜と考えられている」と記した箇所は、学術的に確定した情報ではなく通説・推定を含みます。